在野の人間が日本科学教育学会で発表するまで

tsuyoshiの頭の中

こんにちは、下平です。

ここのブログで記事を書くのも久しぶりですね。

昨年と同じように、理科教育Advent Calendarの企画の一環として、記事を書いていこうと思います。

 

タイトルに「在野の人間が日本科学教育学会で発表するまで」とあるように、職業研究者でない身分で科学教育の研究に関わり、その1つの成果を発表するまでのことを振り返る、という内容です。

あまり飾らず、思っていたこと・思っていることを素直に書いていこうと思います。

 

職業研究者でない身分で研究をする

まず、「職業研究者でない」自分はどういう人間なのか、どういう研究環境に置かれているのか、というところについて、簡単に触れておこうと思います。

 

自分は現在、研究機関で事務職として働く立場であり、仕事として研究を行っている訳ではありません。

仕事以外の時間を使って、勉強会や学会への参加、論文や記事の執筆、日本科学振興協会(JAAS)の活動を通した社会貢献などを行っています。

研究環境としては、幸いなことに全く孤独という訳ではなく、今回の学会発表の所属としても「使った」Science Education Book Club in Japan(以下,Book Club)という理科教育・科学教育に関する勉強会を行っているオンラインコミュニティでの議論や、日本科学振興協会内で知り合った方々と様々なプロジェクト・活動の中で意見交換する中で、なんとか研究活動を続けることができている、という状態です。

Science Education Book Club in Japan Twitter:https://twitter.com/ScienceEducat10

 

発表することを決めるまで

そういった研究環境に身を置いて2年目となる今年は、何かしらの研究発表をしようと思っていたのが今年の1月頃でした。

そんな中で、どんなネタでどんな研究をやろうか、と漠然と考えていたのですが、金無・時間無・伝手無という状態な訳です。

教育研究は生徒等を相手にしてデータを取って行う研究が多いなと感じており、伝手(フィールド)の無い状態で、本当にどうしようか、と思っていたことを覚えています。

(今でも思う事はありますが(笑))

 

そんな中で、今年の4~6月頃にBook Clubで「質的研究勉強会」というものが行われました。

このときは、「質的研究のための理論入門」という本の輪読会を、興味のあるメンバーで行うというものでした。

(今改めてみても、「よくこれ読み切ったな」と思います。)

その中で、シンボリック相互作用論や記号論の話をする回があって、そこで「マンガ」ってこういう文脈でも議論できるやん!って思ったのが最初のきっかけだったかな?と思います。

 

あと、これは完全に振り返ってのものですが、この質的研究勉強会の中で、『質的研究も学会で見てみたいよね』という感じの雰囲気があったのは、実は今回の学会発表を後押しするものだったと思いました。

 

Book Clubでは全員が最後に感想を言う時間があるのですが、その中でも度々「マンガ」に引き寄せて感想を考えていて、どこかのタイミングでおそらく「マンガをテーマに発表してみたいと思う」と言った(言ってしまった)ような記憶がぼんやりとあります。

この頃から、マンガと科学教育を絡めて質的研究的なものを発表することを意識するようになりました。

 

発表すると決めてから発表当日までの慌ただしさと葛藤

さて、発表すると漠然と決めてから、どういう論の構成にするのかを考える日々が続きました。

「こういう研究は論の展開が肝になる」と思っていたところもあり、アイデアを書いては整理し、書いては整理し、といった日々が続いた感じだったと思います。

また、その頃、ちょうど日本科学振興協会のキックオフミーティングにかなり時間が取られていたこともあって、あんまり具体的な内容を詰めていくようなことを考える余裕はなかったです。

 

マンガの持つフィクション性に着目しようということは7~8月くらいの段階で決めていたのですが、それをどう論じるかはまだまだ詰められていなかったです。

そんな中で、8月下旬に伊勢田哲治先生の「議論としてのフィクション」という論考(?)を見つけることができたのは1つの幸運だったと思います。

これを読みながら、「こういう議論の仕方があるんだ」と思いましたし、実際今回の発表の中でも引用させていただいたものです。

そういった中で9月に日本科学教育学会の年会があって、Book Clubのメンバーと対面で話をする機会がありました。

その中で、「年末の若手研究会で発表しますよ!」と言って後に引けなくなっていったことは覚えてます。

ただ、発表内容に対する不安はそこまでなかった記憶があるので、その時にはかなり論の展開のイメージが固まってきていたのだと思います。

その後、10月頃はイメージを固めながら、いろいろな文献を調べていました。

まずはオープンアクセスで読めるものを読み漁りながら、科学教育とマンガ研究に関する先行研究を集め、論の展開の裏付けを取ったり論の修正をしたり、といったような日々を過ごしてきました。

マンガ研究に関する文献は、書籍形式のものが非常に多く、そういったものを買い集めるのに、10月・11月だけで3万円くらいはつかったんじゃないかな、と思います。

(これでも最低限に絞ったので、欲しい書籍自体はもっとあったりしました)

 

さて、この後11月になってくると、実際に発表原稿を実際に提出する時期がやってきました。

「書くことと考えることは表裏一体」とはよく言ったもので、書くことによって論の繋がっていないことが浮き上がったり、自分で咀嚼しきれていなかった文脈がでてきたりしました。(これは発表前日に発表スライドを作りきるまで続きました。)

この頃から「この発表内容で本当にいいのか」というような葛藤が大きくなってきたように思います。おそらく、この葛藤自体は元々あったものだとは思うのですが、いつもの仲の良い人以外にも(なんなら社会に向けて)研究を発表することへの怖さというものはありました。

特に、発表内容について議論する人がいなかったというのはやはり不安になるもので、発表しても評価されないんじゃないか、独りよがりになっていないだろうか、というような不安が大きくなっていったという感じでした。

そのときは、「研究会なんだから、不完全なものでもアイデアを発表してそれを敲けばいいんだ!!」と言い聞かせながら、手と心を動かしていました。

 

発表原稿の執筆やマッドネス動画の提出、発表スライドの作成なども、平日の夜や土日を使いながらかなりタイトにやりながら、どれもなんとか〆切ギリギリまでクオリティを高めようとしながら、なんとか提出しきった、という感じでした。

 

そうして発表練習をするわけですが、発表15分の時間にどうやっても収まらないなこれ、ということになりつつも、なんとか15分で話しきれるように、でも論が飛ばないように、というので練習してました。

 

発表当日~不安と期待と~

いろいろと不安はありつつも、「少なくともBook Clubの人は面白がってくれるだろう!!」「科学教育学会でこういう研究少ないし、面白そうに映ってくれるだろう」と自分に言い聞かせながら、当日を迎えました。

 

当日の発表は、早口になりつつも、なんとか15分の発表時間に抑えて質疑応答、となったのですが、正直話しながらも「あれ?あんまり反応良くない??」みたいな感じに思って、徐々に不安になっていきました。

(あとマスクをしながらの早口だったので、かなり呼吸が苦しかったです(笑))

発表後に声をかけられて、みたいなこともなかったので、手応え的にはどうなんだ??って感じになってました。

そんな感じで発表が終わってから1時間くらいは放心状態で、正直他の発表の記憶がほとんどなかったです(笑)

 

そんな感じで不安な状態になりながら、ベストプレゼンテーション賞の発表があり、そこで名前を呼ばれたときには、喜びと言うより安堵の気持ちのほうが大きかったです。

 

発表に至るまでを振り返って

こんな感じで、取りとめもなく学会発表(でベストプレゼンテーション賞を受賞する)までを振り返ってみました。

振り返ってみると、かなり不安を抱えながら、なんとかその不安を正当化しながら発表まで漕ぎつけた、って感じがあったなと思います。

Book Clubの『仲間』の方々の存在と言うのは非常にありがたくて、度々自分の研究発表を楽しみにしてくれているという声をかけてもらいながら、なんとか心のバランスを保っていた、というところがあったりします。

 

他にも、「自分の発表を正当化することのできる論理を持てるかどうか」(最後の最後、論理的な逃げ場があるかどうか)というところを持てていたのは、発表まで漕ぎつけるための1つの支えになっていたと思います。

「プレレジ発表でいいや」「研究会だから、完全なものでなくても全然良い」という態度の持ち方を知っていたこと、そして、そういった態度で研究会に参加することを良しとしようとする人の存在を知っていたことが、拒絶はされないだろうという気持ちにさせてくれていました。

また、科学教育学会のこの、若手活性化委員会主催の研究会がアットホームな研究会だということを身を以て知っていたのもあって、そういう安心感もありました。

 

次の研究のステップに向かって

そんなこんなで、学会発表を終えた訳ですが、これからも研究活動は続けていこうと思っています。

学会原稿が6ページという制限もあり、書ききれなかった内容を含めて論文化までもっていきたいな、という気持ちもあったり、更に他の研究も発展させていきたいと思っています。

今回のマンガに関する研究もそうですし、当面の間は、文化進化や、シチズンサイエンスと教育など、「科学・人・文化」を軸に研究を発展していければと考えています。

そんな中で既に、来年の論文投稿費や学会参加費をどうするかといった研究環境に関することがかなり大きな問題となっており、どうにかしないとな、という部分も出てきています。

 

自分と同じような環境で研究をする人はいるかもしれないし、いないかもしれません。

ただ、「そういった環境でも研究することもできる」ということを実績として示すことができたのは、自分にとっては意味のあることでしたし、他の誰かを励ますものになればな、と思っています。

 

似た境遇で苦労している方がいれば、お声かけいただければ力になれることもあるかと思いますので、気軽に声をかけてください。

まとめると

「仲間は大事」

「研究の議論ができる環境は大事」

「(学会やその分野にとって)挑戦的と思える内容を安心して発表できると思わせる場は大事」

「そうは言っても金銭的な研究基盤の重要性は研究のステップが進めば進むほど増してくる」

になるかと思います。

 

今回は備忘録的な感じで散文となってしまいましたが、どこかのタイミングで改めて、今回の経験については整理しておきたいと思っています。

(そういう内容の記事を載せてもいいよ!という媒体があれば是非お声かけください)

 

この記事が、ほんの少しでも、どこかの誰かの力になれますように。

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