下平の持つ大きな問い
自分の大きな持つ大きな問いは「”人”とはなにか」というものです.
“人” というのは実に不思議な存在で,捉え方によって見えるものが全く異なります.
生物学的な現象の捉え方をするならば,生命活動は細胞や組織のダイナミクスが織りなす ”協奏” であると言えるでしょう.あるいは,社会の中の人を見るのであれば,文化や規範,他者との関係性の影響の中でバランスを取りながら生きている存在であると言えます.
そして,これらの現象は人の内部と外部が相互に影響を与え合っています.人は人体内部のダイナミクスによって行動を決定し,外界へと作用します.一方で,その外界への作用を受けて人体内部は適応し,異なるダイナミクスを形成します.また,人の行動や思考は社会の文化や規範から影響を受ける一方で,人の行動や思考が社会の文化や規範に寄与する側面もあります.このような相互作用を示しながら,”人” は様々な調節を行い,生きています.
このような社会や行動を示す”人”に対して「”人” とはなにか」という大きな問いを立てた時に,様々な視点から ”人” を解釈し理解していくことが不可欠です.
先程までで示した ”人” に関わる様々な現象は,本来は全て連続的につながっているはずです.しかしながら,その理解は多くの場合,時間的にも空間的にも異なる階層毎に行われています.
自分は,様々な分野や視点から ”人” について考えることによってこの階層を横断し,理解することが自分にとっての究極的な目標になります.
興味のあるトピック
現在,興味を持っているトピックは大きく分けて2つあります.
1つは社会の中で科学や知識,そしてそれに対するリテラシーがどのように形成され,またそれが個人の行動や社会活動とどう相互作用しているのか,という点です.知識を集積し,次世代に引き継ぐことは人類が持つ大きな特徴です.この集積し継承された知識に対して,人は個々の価値観や判断基準といったリテラシーをもって評価を下します.この知識の集積と継承は何によって可能になったのか,また,知識を継承するとは何をもってしてそう言えるのか,その知識に対するリテラシーはどうやって形成されるのか.まずこの点に興味があります.そして,知識やそれに対するリテラシーは個人の思想や行動に影響を与え,また社会全体の在り方にも影響を与えます.一方で,社会の在り方は特にリテラシーの在り方に強い影響を与えます.この相互作用のメカニズムはどのようなものなのか,という点にも興味を持っています.科学コミュニケーションや専門知の形成のされ方について考えることで科学の形成やリテラシーについて考え,また科学や知と社会との関係性について思考を深めていきたいと考えています.
もう1つは,人の持つ生物的な特徴が社会の形成にどのような影響を与えているのか,という点です.人は他の生物と異なる存在として語られることがあります.しかし,実際はそのようなことはなく,人はあくまで地球上の生物の1種でしかありません.そこで,まず,人が生物的な存在として,どのような特徴を持っているのか,という点について,生命活動や進化の観点から考えていきたいと思っています.また,それらの生物的な特徴の存在が,人間の集団である社会に与える影響はどのようなものなのか,という点に強い興味を持っています.将来的には記述・説明的なアプローチや,数理モデルを用いたアプローチに取り組みたいと考えていきます.
「教育」に対する考え方
「教育」は未来へとバトンをつなぐ行為であると同時に,自分自身が生きる社会の形成に参画していく行為であると考えています.
人が知識や文化を継承するためには「教育」が不可欠です.今でこそ教育は学校教育の下で制度化されていますが,もっと広く教育を捉えた場合,教育は「自分以外の人に対して自らの持つ知識や文化を開示・共有し伝達する行為」であると言えるでしょう.そして,この教育という営みの対象が未来を担う子供たちになったとき,それは未来へのバトンを引き継ぐ行為となると考えています.
また,教育の営みは社会の中でも行われています.自らの知識や文化を開示し伝達するという意味で,人は程度や意識の差はあれど,相互に教育し合っています.その相互での営みによって今ある文化が更新され,そして自らの生きる社会の形成につながっていくと考えます.
このような教育という営みの中で自分の「教育者」としての役割を1つ挙げるならば,それは「翻訳者」です.社会においては様々な分野が階層的・離散的に存在しています.自分は他の人と比べれば,(全ての分野とはいきませんが)比較的多くの分野を越境して物事を考えることに長けている部分があります.そのため,様々な分野をつなぐ翻訳者(interpreter)という役割は,自分の果たすことのできる役割の1つであると考えています.
「教育」は自分と他人の相互作用の中で生まれる,自分にとっても興味深く,また自分が社会に貢献できる行為の1つでもあると思っています.