2023年の研究活動に向けて

tsuyoshiの頭の中

みなさん、新年あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします。

 

2023年になり、26歳になりました。30歳後半戦スタートです。

そして、シチズンサイエンティストとして研究活動を行うようになって、2年近くになります。

この2年間、全く新しい研究環境に身を置く中で、新しく学べたことや整理出来てきたことは、たくさんあります。反対に、手を付けられなかったことや新たに興味を持ったことも、多いです。

特に、昨年の2022年は、研究活動・研究環境について、様々な変化がありました。

そこで、今回の記事では、現在の自分の学問的な関心について改めて整理し、2023年の自分の研究活動について概観していこうと思います。

(※プライベートを含めた生存報告・目標は、Facebookに後日投稿する予定です。)

 

「文化・科学に関心を持つシチズンサイエンティスト」として活動してきた2022年

「学問的な関心を改めて整理する」ということを先ほど述べましたが、実のところ、昨年も今も、自分の学問的な関心事の中心にあるテーマについては変わっていません。

自分にとって中心にある問いは、『ヒトの生物らしさが、社会の形成や人間行動にどのような影響を与えるのか』というものです。

そして、その問いを捉える観点が「文化進化」という、社会集団や個人が有する文化の時間的経過について考えるという観点です。そして、どのような「ヒトの生物らしさ」が、この文化進化のダイナミクスをどのように駆動させるか、というのが、自分の関心になります。

ここで、「ヒトの生物らしさ」の1つとして考えているものとして、『知識の生産・伝達・蓄積』があります。中でも「科学的・学問的知識の生産・伝達・蓄積を行う中での、個人と社会のダイナミクス」というところに関心を持ち、「そもそも科学や学問はどのようなものか?」を問う科学論や、「科学的・学問的知識の伝達」を扱う科学教育の観点から考えています。

 

このような関心のもとで行う研究活動・社会活動を、大学院生や職業研究者として行うものではなく、非職業研究者、すなわちシチズンサイエンティストとして行ってきたのが2022年、ということになります。

(なので、「文化・科学に関心を持つシチズンサイエンティスト」となる訳です。)

 

そして、この学問的関心を前提として、ここからは、2022年の主な活動を振り返ってみようと思います。

  • 「Science Education Book Club in Japan」での交流・勉強会

「Science Education Book Club in Japan」というのは、理科教育や科学教育に関心を持つ教員・研究者らから構成される、オンラインの研究互助コミュニティです。(詳しくはこちら

特に、「Book Club」という週1回での科学教育学に関する文献・書籍の輪読会や、「質的研究勉強会」という同じく週1回で質的研究の理論的背景や手法の勉強会には、継続的に参加していました。

このコミュニティ内で声掛けをいただいた研究プロジェクトに参加させていただいたりと、科学教育系の研究のテーマ・手法を中心に、視野や手法の幅を広げていきました。

  • 日本科学教育学会の研究会での発表

2022年の12月に行われた日本科学教育学会の研究会で、「科学教育におけるマンガについての理論的検討―科学とフィクション,学習マンガと娯楽マンガの観点から―」という演題で発表しました。(発表原稿はこちら

この発表は、先程挙げた、Science Education Book Club in Japanの交流・議論から刺激を受けて、発表したものになります。「フィクション性を鍵にマンガを論じる」という着想自体は3~4年くらい前から持っていたもので、今回、それにScience Education Book Club in Japanの中で出てきた観点・手法をさらに併せて1つの形としてまとめたものです。

(着想自体がそれなりに前なので、アイデアや論じ方のヒントは、Science Education Book Club in Japan以外の場所からいただいたものもたくさんあります。)

幸いなことに、ベストプレゼンテーション賞をいただくことができ、シチズンサイエンティストの身で出せた、1つの研究成果として自信につながるものでした。

  • 日本科学振興協会(JAAS)での活動

日本科学振興協会(JAAS)は、日本における民間の科学振興団体を目指して設立された団体であり、2022年2月22日に設立された非営利法人です。

自分は、研究活動のアウトリーチ活動というよりかは、参加型アクションリサーチの一環という感覚で、研究者としてJAASの活動に関わってきました。

特に、6月に行われたキックオフミーティング(プログラムはこちら)では、

      • 「科学とはなにか」を改めて問う ~異なる「科学」への視点を対話する~
      • 科学の場に参加する”ハードル”を取り除くには~全ての人が科学を楽しむ場を作るために~
      • JAAS若手企画セッション「私たちは”科学”をどう捉えていくべきか」

という、JAASとして科学振興を行っていくために、本質的な部分とも言える3つのセッションを企画しました。

それ以外にも、JAASの内部で科学教育に関する活動・事業・研究を行っていくための下地作りを行っていました。

現在はイノベーションユース2040の運営に関わっています。(ホームページはこちら

  • 学会参加による情報収集

2022年に参加した学会・学術集会は下記の通りでした。

      • 日本科学振興協会キックオフミーティング(2022年6月/企画・登壇)
      • 日本数理生物学会年会(2022年9月/聴講)
      • 日本科学教育学会年会(2022年9月/共著発表・聴講)
      • 研究・イノベーション学会年次学術大会(2022年11月/話題提供)
      • 日本人間行動進化学会年次大会(2022年12月/聴講)
      • 日本科学教育学会研究会(2022年12月/発表)

シチズンサイエンティストが仕事(職)の中で自分の学問的な関心に近い話を聞く機会は、非常に少ないものです。ですので、学会参加というのは、自身と関心のある学問コミュニティの間をつなぎ留める、重要な機会となります。

2021年に比べて2022年は多くの学会に参加したのは、1つ大きな変化かな、と思います。

  • 1人で本を読み、手を動かす

周囲に議論する相手のいないような場合や、自身の知識をアップデートさせていく必要がある場合は、この形での研究活動を行っていました。

特に、文化進化関係の話は、関連する書籍を読み、手を動かして数式を追う、という形での活動が多かったです。

ただ、特に2022年の後半はこのような形で研究に向き合う時間をあまり取れなかったな、と感じています。

 

これ以外にも細かなミーティングや交流、プロジェクトのための下地作りも行ってきましたが、振り返ってみると主な活動はこんな感じだったかなー、と思います。

(まだ表で言えないものはありますが、ひとまずこんなところでしょう。)

 

2023年の研究活動の整理~3つの軸から~

ここからは、2022年の振り返りや現在の研究の着想・構想をもとに、2023年の研究活動の方針について整理していきます。

もちろん、状況に応じて変わっていくとは思うのですが、2022年の振り返りからも分かるように、自分の学問的な関心事の中心にあるテーマが変わっていなくても、自分の中の研究分野・方法・活動のバリエーションは多岐に渡っています。

正直、途中でいろいろ見失いそうになるくらいに(笑)

ですので、ここらで一度整理しよう、って感じですかね。

 

①文化進化研究について

文化進化研究の中でも、自分は数理的手法を用いていこうと考えており、その手法を身に付けるための素地を作っていくことに、2023年は取り組んでいこうと思っています。

「ヒトの生物らしさ」に着目する以上、文化進化研究における数理的手法だけでなく、生物学における数理的手法も同様に見ていく必要があるでしょう。

もちろん、研究成果のレビューや哲学的検討の蓄積を知ることも重要ですが、今の自分に必要なのは、「手法・理論を自分の中に馴染ませていく」ことだと考えています。

 

これには、2022年の特に後半に、自分にとって最も重要な部分であるはずのこの部分の研究活動が手薄になってしまっていたことへの反省もあります。

中でも、下記の書籍を読むこと・手を動かす時間を取ることの優先順位を高くしていこうと思います。

  • 文化進化の数理(田村光平/森北出版、リンク
  • 進化のダイナミクス―生命の謎を解き明かす方程式―(MARTIN A.NOWAK/共立出版、リンク
  • 進化と人間行動第2版(長谷川寿一・長谷川眞理子・大槻久/東京大学出版会、リンク
  • 人間性の進化的起源――なぜヒトだけが複雑な文化を創造できたのか(Kevin N. Laland/勁草書房、リンク

  • 社会はどう進化するのか 進化生物学が拓く新しい世界観(David Sloan Wilson/亜紀書房、リンク

ただ、一番優先順位が高いからこそ、取り組む内容は一番不安定になりやすいという部分もあったりします。(博士課程進学も絡んでくる話なので。)

ただ、「時間を取れない・取らない」というようにはならないように、ここで宣言しておこうと思います。

 

②科学教育研究について

科学教育研究は、過去2年間ほどの研究活動の中で、自分が貢献できそうな部分が来たところです。なので、取り組む内容・切り口も、文化進化研究と比べると具体的になっています。

2023年は次の3つの内容・領域について扱っていこうと思います。

 

Ⅰ.シチズンサイエンスと科学教育

職業研究者でない、非職業研究者を交えたかたちで行う研究活動は、「シチズンサイエンス」と呼ばれます。

このシチズンサイエンスの活動は欧米の、特に環境分野で活発ですが、日本においても、2018年の日本学術会議の提言、2021年の第6期科学技術・イノベーション基本計画、2022年のJAASのキックオフミーティングでのセッションなど、シチズンサイエンスの社会実装に向けた動きが近年徐々に大きくなってきています。

この動きを更に注意深く見ていくと、科学の諸学問の発展のためのシチズンサイエンスの重要性が強調されていたり(特に科学技術・イノベーション基本計画はこの側面が強いと感じてます)、既存のシチズンサイエンスの実践を分類・類型化し、その環境を整備するといった方向での試みがなされてきています。(というように、少なくとも自分は見ています。)

そして、その中で、「シチズンサイエンスという活動が、個人や社会にとってどのような意義を持つのか(持ちうるのか)」という点についての検討は、まだまだ整理されていない部分だと自分は捉えています。

そして、「シチズンサイエンスを社会の中に実装していく」という動きと、「シチズンサイエンスの個人的・社会的意義を見出し位置づけていく」という動きは、同時に取り組んでいく必要があるでしょう。

 

このテーマの難しさは、シチズンサイエンスの範囲や関わる人の立場が非常に多岐に渡っていてその分類自体が難しいことだけではありません。シチズンサイエンスという文化がまだまだ成熟していない中で、シチズンサイエンスの理念的背景からシチズンサイエンスにいう方法によって可能となる社会的意義・貢献を見出すこと、また、シチズンサイエンスを行うという行為自体が持つ個人への影響(豊かさなど)を検討することという点に、難しさがあると思っています。

そして、これを行うには、既存のシチズンサイエンスの取り組みから見える貢献の様子と、哲学的・理念的な観点からある種の”跳躍”を行うことによって描くことのできる像を融合させて示すことが必要だと感じています。

 

この研究テーマに取り組もうと思ったのは、やはり自身がシチズンサイエンティストの身であり、また科学教育の研究の文脈にも身を置いている、というのが1つの理由です。シチズンサイエンティストとしての研究環境の複雑さや、それによるアイデンティティの葛藤が理解できるからこそ、描くことのできるシチズンサイエンスの像があると考えています。

そして、これからの日本の科学・サイエンス・社会の関係性を論じる上でも非常に重要な仕事だと捉えていて、2023年中に何度か発表の機会を持てるように取り組んでいこうと考えています。

 

Ⅱ.超自然的な対象への感覚と科学教育

「超自然的な対象」を私たちがどのように捉えているのか、あるいはどのように捉えるべきなのか、という問いは科学教育を考える基盤となる問いです。

例えば、明治時代以降の日本の理科教育において「自然を愛する心情を育むこと」が目標として言われますが、『自然を愛す心情を通して、どのような感覚を養うのか』、という点は、その教育的意義を検討する基盤として重要になります。

ここで、社会の流れに目を向けると戦前の日本から高度経済成長やグローバル化、それに伴う地縁コミュニティの解体の流れの中で、コミュニティや自然・宗教に対する感覚が20世紀後半から21世紀にかけて大きく変動してきました。

当然、社会の中における自然やコミュニティ、社会や環境といった「超自然的な対象」への”感覚”(信仰など)は変わってきているはずです。

こういった中で、『現在社会を豊かに生きるために養うべき、「自然を愛する心情に伴う感覚」の在り方(=超自然的な対象への感覚)として、どのような像を描くことができるのだろうか』『その感覚(=自然観)と現代科学における概念変容はどのような形で応答し得るのか』というのが、この研究テーマにおける問いになります。

 

最初の手がかりとして、小川正賢氏の「土着科学」の研究や、ジョン・デューイの「自然的敬虔」への考え方(より厳密には、谷川嘉浩さんが『信仰と想像力の哲学』の中で描き出したデューイの自然的敬虔)、エミール・デュルケームが『自殺論』で指摘した社会における個人の存在の危機をもとに、思考・検討を進めていこうと考えています。

これは到底1年でまとめられるようなテーマではないと感じているので、学会等で発表するのは来年以降かな、と考えています。ディスカッションは大歓迎なので、お待ちしてます!

 

Ⅲ.社会の中のコンテンツと科学教育

昨年の12月に社会における科学教育とマンガの関係について発表しましたが、その内容・領域を更に広げていくようなものなります。

マンガやメディアといった社会の中のコンテンツには、科学を扱ったものがたくさんあります。

ここで、科学教育を「科学文化を伝達すること」、これらのコンテンツを「科学文化を伝達する媒体」、すなわち科学を伝達するための文化的装置と見做した時に、科学教育の文脈でこれらのコンテンツをどのように論じることができるのか、というのがこのテーマに取り組むときの基本的な態度になります。

 

このテーマで直近で取り組むのは、12月の研究会の発表原稿を、3月末の論文投稿としての締め切りまでに、大幅に加筆・修正して執筆し直すことになると思います。

その後は、個別のマンガの分析や、他のコンテンツの分析にも取り組んでいきたいと考えています。

 

マンガやメディアといった社会の中のコンテンツを、科学教育という文脈・視点から分析していくことで、コンテンツの側にとっては科学教育からの視点が加わることで更なるコンテンツ制作の糧となるような、科学教育の側にとっては科学教育研究の裾野を「社会の中の科学教育」というところに広げることになるような、そんな研究ができれば、と思っています。

 

③科学文化形成への参加型アクションリサーチ

これは、主に日本科学振興協会(JAAS)での活動になると思います。

今、自分は日本科学振興協会の中で科学教育に関する活動の地盤固めを行っていますが、それを引き続き行っていこうと考えています。

 

この活動を「参加型アクションリサーチ」という形だと捉えているのは、この活動を、科学論や科学教育、文化に関して自身が持つ専門性を、JAASの活動の形態や思想に活かしつつ、実際の活動は他の会員らと対等な立場で行っていくものだと考えているからです。

人文社会科学系・自然科学系の両方の研究経験やそれらの分野における思想に関する基礎的な知識・概念を持っていることは、この活動の中で活きることが大きいと思いますし、他の研究活動の中で更新されていく自身の知識・概念を活動に反映させていくことで、JAASの科学教育に関する組織が、よい文化を持ったものとして確立していくことを目指せれば、と思っています。

特に、「科学教育」のコミュニティや対話の輪・裾野を広げ、学校の教科教育以外の科学教育の実践・研究に取り組むことのできる基盤を社会の中に作ることを常に意識しながら、JAASの活動に取り組んでいければと思っています。

 

また、研究者同士のクローズド・身内の場で出た議論や分野横断で考えるべき議論を、イベントなどの形で「対話」の形にまで実装していくことは、引き続きやっていければと思っています。

これらの参加型アクションリサーチは力を入れればいくらでも力を入れることができる反面、他の自身の研究活動の時間を圧迫してバランスが崩れてしまうという昨年の反省があるので、今年はもう少しうまくバランスをとってやっていければと思います。

 

「自身の興味」と「科学文化への貢献」の両立を目指す2023年に

長くなりましたが、2022年の振り返りから2023年への研究活動の方針の整理してきました。

途中でも述べたように、それぞれの研究活動の中で取り組んでいく内容は、状況に応じて変わっていくことはあると思います。

ただ、これを書いたことで、現時点での自分の研究活動が整理されたのと、「こういうことを考えている」ということを他の方に示すことができたのは良かったと思います。

特に、「自分の興味」を追求しようという姿勢と、「科学文化への貢献」という形で研究活動自体や社会活動を位置づけていこうとする姿勢という形で自身の研究活動を整理することができ、そのバランスを取る、という形で明文化できて良かったと思っています。

 

去年までは、シチズンサイエンティストとしての研究活動が手探りでしたが、最近はだいぶ感覚がつかめてきた部分もあるので、2023年はよい研究ができればと思っています。

ただ、やはり悩みは資金面ですね。生活の中で研究時間を作ることと、非職業研究者の身で研究資金を調達すること・研究支援を受けることは全く性質の異なる話です。論文投稿や学会発表など、研究者として基本とも言えるような形で研究活動により力を入れていくためには、給与からの支出だけではどうにもならないところがあります。

資金面は、もし乗り越えることができれば、どこかで書き記しておこうと思います(笑)

 

2023年もよい1年にしていければと思うので、どうぞよろしくお願いいたします。

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