教員の働き方改革に関する一考察-『コロナ禍の子どもの教育と教員の働き方改革を問う』をベースに-

tsuyoshiの頭の中

2020年の7/18に、『コロナ禍の子どもの教育と教員の働き方改革を問う』という題目で、内田良氏、斉藤ひでみ氏、工藤祥子氏、嶋﨑量氏(順不同)によるオンラインでのイベントが行われた。

当日は別件があり自分は参加することができなかったのだが、後日その動画がYouTubeにアップされたので、そちらの方を拝見させていただいた。(以下にこの動画のリンクを示す。)

教員の働き方改革は、早急に解決すべき課題であると私も認識しており、課題意識を持っている。まだ開発途中で完成していないのであまり大きな声では言えないが、現在、私個人としても、学校現場を模したボードゲームの制作により、学校の実態の世間への周知および学校の働き方改革に貢献したいと考えている最中である。

そのような中で、学校の働き方改革の最前線におられる方が意見を交わしておられる場は、非常に貴重であり重要であると感じた。

そこで、誠に勝手ながら、今回のイベントの内容で重要だと感じた論点についてまとめ、また私の考えについて述べさせていただければと思っている。

もちろん、独りよがりな議論にならないよう、出来る限り文献や資料にも適宜触れながら話を進めさせていただく。なお、文章の見やすさのため、文中では参考文献は文字の大きさを小さくさせていただく。参考文献は記事末尾で改めてまとめているため、必要な方はそちらも併せてご参照いただければと思う。

学校の働き方改革という、巨大な問題を扱う以上、記事の分量としては膨大なものとなっている。しかし、どうか、同じ問題に少しでも関心を持つ方は、最後まで目を通していただくことを願う

前置きが長くなったが、それでは始めていこうと思う。どうか最後までお付き合い願えれば幸いである。

 

なお、私のこの記事は登壇者の方々とは何の関係もなく、あくまでイベントを視聴した、大学院生一個人の感想と考えです。当記事に対する問い合わせはこのブログのフォーム、もしくはSNSのDMを通してお願いいたします。

 

論点の整理

まずは、オンラインイベント『コロナ禍の子どもの教育と教員の働き方改革を問う』(以下、イベント)で示された論点について、整理していこうと思う。

イベントで提示された主要な論点は以下の3点であろう。

  • 教員の業務過多な現状と見直しの動き
  • 教員を取り巻く制度と現状との乖離
  • 教員のメンタルケアの重要性

これらの論点は、教員の働き方改革を問う上で非常に重要な論点である。

そこで、これらの論点を軸に、イベント内で提示された資料や、私が提示する追加資料を踏まえながら、それぞれの論点について深めていこうと思う。

 

教員の業務過多な現状と見直しの動き

教員の本来の業務

教員の業務の多寡や現状について議論する前に、まずは教員の本来の業務について整理することが必要である。

これについて、中央教育審議会(第121回総会、2020年1月25日開催)の「新しい時代の教育に向けた持続可能な学校尾指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革に関する総合的な方策について」の答申(以下、中教審第125回答申本文)では、以下のように述べられている。

ⅰ)学習指導要領等を基準として編成された教育課程に基づく学習指導
ⅱ)児童生徒の人格の形成を助けるために必要不可欠な生徒指導・進路指導
ⅲ)保護者・地域等と連携を進めながら,これら教育課程の実施や生徒指導の実施に必要な学級経営や学校運営業務

中央教育審議会(第121回総会、2020125日開催)「新しい時代の教育に向けた持続可能な学校尾指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革に関する総合的な方策について」答申本文、第4章、https://www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/toushin/__icsFiles/afieldfile/2019/03/08/1412993_1_1.pdf

このように、”日本の教員は、教科指導、生徒指導、部活動指導等を一体的に行うことが本務“であり、教員の業務が多様であることを示している(中教審第121回総会参考資料,https://www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/toushin/__icsFiles/afieldfile/2019/03/08/1412993_24_1.pdf)

この答申は教員の働き方改革の一環の中で提示されたものであるため、過去数十年の状態や動向を完全に反映していると言い切ることはできないが、一定の参考にすることはできそうである。

そこで、それぞれの項目について、更に詳細に考えていこうと思う。

 

まず、1項目目の学習指導に関して考えていこう。

学習指導要領は学校における教科の目標や大まかな教育内容を示したものである(参考;文部科学省,学習指導要領とは何か?,https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/idea/1304372.htm)。このことを踏まえると、1項目目の学習指導は教員の授業における役割を示したものであると捉えることができる。

教科教育の仕事世界共通での教員の仕事として認識されていることであり、1項目目に関しては教員の仕事であると言えるであろう。

 

次に、2項目目の生徒指導・進路指導に関して考えようと思う。

諸外国での教員の業務の比重が教科教育に置かれているのに対し、生徒指導や進路指導が教員の仕事として定義されているのは、日本の教員の特徴であると言える。

一概に諸外国と比較してその是非を論じることはできないため提示のみで深くは踏み込まないが、後の議論の参考のためにも諸外国と日本との国際比較を示しておこうと思う。

図 日本と海外での業務の違い

引用:中教審第121回総会参考資料https://www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/toushin/__icsFiles/afieldfile/2019/03/08/1412993_24_1.pdf

 

また、ここで業務として分類されているのは「必要不可欠な」生徒指導や進路指導であることにも留意すべきであろう。つまり、人格形成のために最低限必要な指導を学校は担うべきである、ということである。

何をもって「必要不可欠」なのかは、後程教員の業務の見直しの部分で触れるためここでは議論を差し控えるが、裏を返せば一定の基準が存在し、それを超えた分の業務に関しては学校の業務でない、ということもできる。

 

最後に3項目目について見ていこうと思う。

これは1項目目と2項目目を実施するために付帯する学校の業務であると解釈することができる。

また、それらを保護者や地域と連携を進めながら行っていくことが記されている。

2項目目と関連させて解釈するのであれば、教科学習や、生徒の人格形成のために必要不可欠な指導に関して、保護者や地域と連携する、と解釈することができる。

決して、保護者や地域の要請に「最大限」応えることが教員の業務ではない、ということが言えるであろう。

(年の為断っておくが、精一杯生徒と向き合っている先生方を否定するつもりは毛頭ない。ただ、制度設計の前提として、全ての教員に最大限を求めることはできない、ということである。)

 

なお、学校と地域コミュニティや日本の学校の社会インフラ性については、記事の後半で改めて考察していこうと思う。

 

教員の業務膨張

教員の業務が膨張していることは、教員の働き方改革の発端の要因の1つであり、大きく問題視されていることである。

ここでは、教員の業務が膨張している原因と、具体的にどの程度膨張しているのかということについて整理していく。

 

この教員の業務の膨張について、2015年の内閣府経済財政諮問会議において、以下のような解釈がなされている。

図 学校の役割の膨張

引用:内閣府経済財政諮問会議 経済・財政一体改革推進委員会 非社会保障ワーキンググループ 第3回会議資料(2015102)https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/reform/wg2/271002/shiryou1-3.pdf

 

つまり、学校の業務が膨張している原因は、時代とともに学校の役割が増加したことであり、それに付随して業務量が増加した、と言うことができる。また、単純な業務量の増加だけでなく、時代に応じて要請される英語教育やグローバル教育などの”新しい教育”に対応するための、質的負担も存在していることが想像される。

学校の役割が増大していった理由に関しては、教員の業務に関して、教員の業務の範囲や境界が曖昧になっているということが原因として考えられる。すなわち、教員の業務の範囲や境界が曖昧なまま様々な要請に応えることでそれらが業務として蓄積し、結果として学校の業務が膨張している、ということである。

 

この学校の業務量の増加はイベント中に内田氏も指摘をしている点である。

内田氏は教育は無限であり、際限がないにも関わらず、教員のリソースは有限であるということを指摘している。

後程、教員を取り巻く制度について述べる際にも改めて触れるが、このアンバランスさは提起されている問題の1つでもある。

 

さらに、学校の業務が拡大に伴って半ば慣例化している業務や、時代と共に手法が変わった業務も存在するため、一言で比較することは困難であるが、教員の勤務時間は年々増加している

あいにく、統一的な調査資料を見つけることが困難だったため、ここでは複数の調査やまとめを提示したい。

表 公立校における教員の勤務時間の推移

引用:残業代ゼロ 教員の長時間労働を生む法制度20171211日 内田良https://news.yahoo.co.jp/byline/ryouchida/20171211-00079169/

 

表 教員の勤務時間と睡眠時間の推移

引用:ベネッセ教育総合研究所 第6回学習指導基本調査 DATA BOOKU(小学校・中学校版)第5章2016https://berd.benesse.jp/up_images/research/Sido_SYOTYU_05.pdf

 

ここで3つの表を示したが、最初の2つはイベントに登壇されている内田良氏が作成されたものである。このデータの算出方法について、内田氏は以下のように述べている。

基本的には10月~11月にかけての労働時間である。1966年度:毎月のうち、10月と11月のデータを参照し、10・11月の平均値を算出。2006年度:計6期間のうち、第5期(10月23日~ 11月19日)のデータを引用。2016年度:調査の実施期間自体が、10月17日~10月23日または10月24日~10月30日、ならびに11月7日~11月13日または11月14日~11月20日

残業代ゼロ 教員の長時間労働を生む法制度20171211日 内田良https://news.yahoo.co.jp/byline/ryouchida/20171211-00079169/

この表からの1966年度と2016年度の残業時間を比較すると、中学校では2倍以上になっていることが分かる。

また3つ目の表は1998年からの推移ではあるが、教員の在校時間が年々増加している様子が見て取れる。

 

このように、年々学校教員の勤務時間は増加していることが見て取れる。これは、教員の仕事が膨張していることの裏付けである、とも言えるだろう。

また、後程触れるが、学校教員の勤務時間の増加は教員の健康状態にも悪影響を及ぼしており、この問題の解決が重要であることを改めて強調しておく。

 

教員の業務見直しに向けた動き

教員の働き方改革は、この教員の業務の膨張・拡大に対して見直しを行うものである。

業務の拡大によって教員の勤務時間が増大していることは、教員のみの健康面での不利益なだけでなく社会にとっての不利益であることを嶋﨑氏らはイベント中に主張しているが、これはこの議論の発端の1つであろう。

実際に、教員の働き方改革の目的は以下のように提示されている。

学校における働き方改革の目的は,現在の教師の厳しい勤務実態を踏まえ,教師のこれまでの働き方を見直し,教師が我が国の学校教育の蓄積と向かい合って自らの授業を磨くとともに日々の生活の質や教職人生を豊かにすることで,自らの人間性や創造性を高め,子供たちに対して効果的な教育活動を行うことができるようになることです。

文部科学省 学校における働き方改革に関する取り組みの徹底について(通知) https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/hatarakikata/__icsFiles/afieldfile/2019/03/18/1414498_1_1.pdf

このように、教員の働き方改革では、教員の生活の質や人生を豊かにすることが目的として掲げられている。

具体的な方策について議論を進めるために、まずは現状、どのような方針が示されているのか、ということについて整理をしていこうと思う。

 

イベント中で内田氏が提示した資料だが、学校や教育委員会が求める業務の削減について、中央教育審議会が提示した資料を示す。

図 学校や教育委員会が求める業務の削減

引用:中央教育審議会(第124回、2020124日開催) 資料1-1 公立の義務教育諸学校等の教職員の給与等に関わる特別措置法の一部を改正する法律について、https://www.mext.go.jp/kaigisiryo/content/000029822.pdf

特に、授業時間の削減可能性(要望5)、教員免許更新制度の金銭的・時間的負担に対する効果(要望6)、学力状況調査の負担(要望8)について文部科学省が言及したことについて驚いたと、内田氏は述べた。

余談ではあるが、内田氏がこれをある講演会で提示した際、普段は起きない拍手が起こったという。この資料のインパクトの大きさを物語っている。

要望のうち、要望1と要望2は学校に関連する人員の増加に関するものであり、要望4~要望8は業務の削減に関するものである。

 

また、別の資料では、学校の業務のうち、教員以外が担うことのできる可能性について述べられている。

引用:中教審第121回総会答申本文 https://www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/toushin/__icsFiles/afieldfile/2019/03/08/1412993_1_1.pdf

ここでは、学校で従来行われていた業務を、

  • 学校以外が担う業務
  • 学校の業務だが教員以外が担う必要のある業務
  • 教員の業務の内、負担軽減が可能なもの

という3つの観点から分類していることになる。

これはそれぞれ順に、学校業務の外注(アウトソーシング)、事務員などの人員追加、業務の効率化・削減といった手法・観点からの、教員の負担軽減のための解決策を提示しているということができる。

 

このように、人員の追加、および教員が担う業務量の削減が、教員の働き方改革の実現のためには重要である。

内田氏や嶋﨑氏はイベント中で、学校の業務過多な現状を解消するためには人員を増やすか業務を減らすかが必要だと主張している。

実際に部活動の外部化などの動きは見られており、この働き方改革による業務整理は少しづつ動きを見せている。

 

コロナ禍の中での教員の業務

コロナ禍の中で、教員はこれまでの業務に加えて、様々な業務を強いられてきた

例えば、学校での消毒作業を教員が行っていることは多くのメディアで報道されており、これはコロナ禍の中で新たに発生した教員の業務であると言える。

コロナ禍による教員の業務について、いずれ包括的な調査研究が行われていくことが期待されるが、現状ではまとまった情報を私は持ち合わせていない。

 

そのため、まず、実際にどのような業務が増えたのかということについて、一例ではあるが、イベント中の岐阜県の高校教員である斉藤氏の事例を元に整理していこうと思う。

 

斉藤氏によれば、コロナ禍において教員の負担は純増であったという。

まず、朝、生徒が登校してきて校舎に入る前に体調確認・体温確認を行い、手洗いを行うように指導を行う。また、教室の窓を開けて換気をすると共に、扇風機を回す。昼休みには消毒作業を行い、放課後にもまた改めて消毒作業を行う。

また、業務量の増加だけでなく、心理的負担も増加していることを斉藤氏は述べていた。

コロナ禍において、教育委員会への対応や身近に感染者が出た時の対応など、緊急対応をすることが日常茶飯事となっており、常に緊張状態にあるという。

また、岐阜県の高校では4月以降双方向型のオンライン授業を行っていたということであるが、これもまた負担となるものであったという。

双方向型の授業に手ごたえを感じつつも、慣れていないことによるトラブルや普段の4倍程度の授業準備、通信環境の整備などの作業を手探りで行い、相当な負担であったという。

以上がコロナ禍における斉藤氏の教員の業務の概要である。

 

また、弁護士の嶋﨑氏はコロナ禍の教員労働問題の課題について、イベント中で以下の点について指摘を行っていた。

  • 「子どものため」の業務増【労働時間】

例)オンライン、在宅学習、感染対策等

  • 教員(労働者)、子どもへの感染対策
  • 感染した・感染が疑われた教員への問題→【労働の質的負担】増大
  • ハラスメント

イベント中スライド 31:00~32:35 https://www.youtube.com/watch?v=lOSMOyoe0K0&feature=youtu.be

工藤氏が指摘した点は斉藤氏が提示したコロナ禍の中での教員の実態に照らしても共通している点が多い。

コロナ禍の中での業務量の増加と心的負担の増加は、コロナ禍の中で教員にとって降りかかる大きな問題であるということができる。

 

ここで注目すべきは、不慣れな業務に対する負担だけでなく、緊急事態であるという緊張感からの負担が更に存在しているということである。このことは、従来の学校の業務の膨張と大きく異なる点であり、今後コロナ禍特有の教員の心的負担を考える際に1つの特徴的な点として扱われるだろうと私は推測している。今後、今年度の教員の精神疾患者数の推移について考察する際に、このことは考慮にいれなければならないだろう。

 

また、コロナ禍での勤務時間について、イベント中の参加者アンケートで集計されていた。イベント動画からのアンケートを参考に表を作成し、以下にその表を示す。

 

表 緊急事態宣言時と6月の教員の残業時間比較(順に合計、小学校、中学校、高等学校)

参考文献:『コロナ禍の子どもの教育と教員の働き方改革を問う』内アンケート調査結果より作成、https://www.youtube.com/watch?v=lOSMOyoe0K0&feature=youtu.be

 

この参加者アンケートからは、コロナ禍において教員の業務が増大したことが見て取れている。また、後の議論のために、この6月の残業時間が、いずれの校種においても45時間を超過していることをご留意いただきたい。

 

また、今回のコロナ禍で浮き彫りになったことの1つとして、緊急時において学校に人員増加を行うことができなかった、ということである。

先ほど教員の業務の見直しについて議論した際に、教員の負担を減らすためには業務を削減するか、人員を増加する必要があるということを述べた。

コロナ禍において、消毒作業やオンライン授業の準備、感染症防止対策など様々な業務が緊急的に増加した。この業務の増加は教員や生徒の安全性確保のために必要最低限の業務であることは広く認められることであろう。

このとき、業務の増加に対して教員の負担の総量を増加させないためには、人員の増加が不可欠であると言える。

しかしながら、その人員の増加が行われていないという事態は、教員の業務見直しの中で出されている方針を実行できていないということを表しており、現段階においては、未だ文部科学省が方針として打ち出していることを実行できない体制であり、今後更なる体制の整備が必要であることを示唆している。

 

補足:コロナ禍での子どもの学びについて

議論の本筋とはずれるので、補足的に述べさせていただくが、斉藤氏はコロナ禍での生徒の学びについて言及されていた。興味深い内容であるので、少し紹介させていただこうと思う。

斉藤氏は3カ月の休校後、生徒に接した際に、生徒の成長を感じられたという。それは、今回のコロナ禍が生徒にとって初めて直面した”映画的出来事“であり、教科書の代わりに大きな学びを生徒は得ていた、という実感を語っておられた。

 

コロナ禍で見えた業務の優先順位

イベント中で内田氏は、コロナ禍の中で教員の業務の優先順位が見えてきたことを指摘していた。

具体的には、授業の優先、行事や部活動の中止あるいは縮小といったことが学校現場で起こったことである、ということである。

 

このことは、教員の働き方を今後考えていく上で、非常に重要な指摘であると私は考える。

先程、教員の本来の業務について論じた際に、生徒指導や進路指導において「必要最低限」の指導が求められていることを述べた。今回のコロナ禍はこの「必要最低限」の線引きについて、議論する大きな契機となる可能性を秘めていると私は考えている。

もちろん、現在のコロナ禍において「必要最低限」が保障されているかどうか、ということは議論の途上であろう。しかしながら、その議論の過程において「必要最低限」の線引きや、業務の優先順位についての議論は避けて通ることができない

このことは、少なからず教員の働き方改革を進める上で大きな進歩を生み出す可能性を有していると感じている。

 

教員を取り巻く制度と現状の乖離

ここまでは、学校現場における教員の業務の現状について焦点を当てながら議論を進めてきた。

ここからは、教員を取り巻く制度について考え、先ほど議論した教員の業務の現状と照らし合わせた際の乖離について議論を進めていく。

 

給特法の概要と問題点

教員に関する法律は多々あるが、教員の働き方改革を問う際の議論にあがる法令としては、『公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=346AC0000000077、いわゆる『給特法』が挙げられる。

まずは、給特法の概要について触れていこうと思う。イベント中の斉藤氏のスライドを引用させていただいて、給特法の概要について見ていこう。

 

【給特法(1971)とは】

(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法)

●要点

職務と勤務態様の特殊性に基づきこの法律を定める

②月給4%の教職調整額を支払う

残業手当は支払わない

残業は原則として命じない(管理職からの命令は行わない)

▶発生している残業は「自発的勤務」

イベント中スライド 42:45~44:40 https://www.youtube.com/watch?v=lOSMOyoe0K0&feature=youtu.be

給特法の特徴としては、教員の職務と勤務体系の特殊性を認めていることである。

つまり、教員の残業を自発的な残業として個人に委ねることで自由度の高さを認め、その代わりに月給4%の教職調整額を支給するというものである。

また、この残業の自発性と個別性から、管理職からの残業命令は行わないということが示されている。

これにより、学校現場において職務命令による残業は存在しないという解釈が成立し、給特法が”THE 定額働かせ放題“であると、イベント中で斉藤氏は主張している。

 

複数の問題点があるため議論を進める順番に迷うが、まずは残業に関する部分から給特法の問題点について議論を進めていこうと思う。

給特法の問題として、教員の残業が自発的であり、労働として認められていない点が挙げられる。

ここで、そもそも学校や教員の残業に対する態度について見ていこうと思う。

学校においては、残業は正規の勤務時間内に適性に業務を割り振ることで、生じないようにするべきものとされている。

例外的に残業指示が認められる項目については超勤4項目と呼ばれており、以下のような事項についての残業指示が認められている。

1  教育職員については、正規の勤務時間の割振りを適正に行い、原則として時間外勤務を命じないものとすること。
2教育職員に対し時間外勤務を命ずる場合は、次に掲げる業務に従事する場合であって臨時又は緊急のやむを得ない必要があるときに限るものとすること。
イ 校外実習その他生徒の実習に関する業務
ロ 修学旅行その他学校の行事に関する業務
ハ 職員会議(設置者の定めるところにより学校に置かれるものをいう。)に関する業務
ニ 非常災害の場合、児童又は生徒の指導に関し緊急の措置を必要とする場合その他やむを得ない場合に必要な業務

中央教育審議会 初等中等教育分科会 教員給与の在り方に関するワークンググループ 教員の職務についてhttps://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/031/siryo/06111414/003.htm

このように、やむを得ない場合を除き、教員の業務は規定時間内に収めることが想定されている。

このことと、残業の自発性から、教員は教職調整額の支払いをもって残業手当を支払わないという制度設計になっている。

 

しかしながら、現在の学校現場において、この制度設計の前提条件が崩壊している

まず、教員調整額の4%の根拠であるが、これは昭和41年度(1966年度)の教員の勤務調査をもとに算出されているhttps://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/031/siryo/07012219/007.htm

しかし、先ほど見てきたように、現在の学校現場においては、1966年と比較すると大幅に業務が増加しており、勤務時間が増加していることは明らかである。つまり、教員調整額が、現在の実態と照らし合わせた時に少なすぎるということである。

さらに、残業がないという前提のもとに給特法は制定されているが、ここまでの勤務時間増加の現状において、その原因の全てを教員の自発的残業の増加と結論づけることはできないであろう。

以上のことから、教員調整額の額面や残業が存在しないとする仮定は、その妥当性を主張する前提が崩壊していると言える。

 

この状態について、弁護士の工藤氏はイベント中に違法な状態であるという姿勢を示しながらも、学校における残業が「労働」と認められない誤った実務運用・判例動向があると指摘している。

 

このように、給特法の前提や仮定と、現在の学校現場の実態が乖離していることが、給特法の大きな問題であったと言える。

 

なお、教員の勤務状態に適切な給与体系がどのような給与体系なのか、という点も論点として考えられるが、これについては、後ほど他の学校の変形時間労働制、および大学教員の裁量労働制について紹介した後に議論したいと思う。

 

さらに、余談ではあるが、今回のコロナ禍における残業の私の解釈も述べておこうと思う。

今回のコロナ禍による一斉休校当初など、コロナ禍において緊急の対応が求められた際に学校教員の残業の様子が報道されていたが、これは4項目目の緊急時として認められるであろう。

しかしながら、現在に至るまでこの緊急時が継続していると解釈することは妥当性に欠けると私は考える。

なぜなら、コロナ禍の状況は既に長期化の様相を呈しており、緊急性が薄れてきているからである。ここでの緊急性とは予測不能性のことを指しているが、現在のコロナ禍の状況は当初と比較すると業務の予測を立てることが可能な段階に来ていると考えられる。依然、コロナ禍以前と比較すると非常時であることは疑いようがないが、緊急性は薄れており、コロナ禍の中において、勤務時間内に業務が完了するような体制の確立を目指すべきであろう。

 

2019年の給特法改正-変形時間労働制-

このように給特法の前提や仮定と、現在の学校現場の実態が乖離が指摘されている中2019年に給特法が改正されたhttps://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=346AC0000000077。具体的にどのように改正されたのかということについて、再びイベント中の斉藤氏のスライドを引用させていただいて見ていこうと思う。

【改正給特法(2019)とは】

●要点

①自発的な残業にも「月45時間、年360時間」の上限を設ける(今年度より)

②夏休みのまとめどりのための「一年単位の変形時間労働制」を導入可能とする(来年度より)

※「残業が労働と認められない」給特法の根本問題については、2022年度に勤務実態調査を行い、再び議論すると約束された

イベント中スライド 46:10~47:55 https://www.youtube.com/watch?v=lOSMOyoe0K0&feature=youtu.be

今回の給特法改正において、残業が認められるかという点が大きく注目されていた点ではあるが、“自発的残業”という表現に留まっており、残業は認められなかった

しかしながら、2022年度に勤務実態調査を行い、残業についての議論を行うことが約束されたことは、斉藤氏も述べていたが僅かながらの前進であろう。

 

それよりも大きな論点は、2つ目の要点として挙げられている、変形時間労働制についてである。

まずは変形時間労働制が何か、ということについて触れようと思う(ここでは1年単位の変形時間労働制についてのみ述べる)。

1年単位の変形労働時間制は、休日の増加による労働者のゆとりの創造、時間外・休日労働の減少による総労働時間の短縮を実現するため、1箇月を超え1年以内の期間を平均して1週間当たりの労働時間が40時間を超えないことを条件として、業務の繁閑に応じ労働時間を配分することを認める制度です。

厚生労働省 労働基準行政関係リーフレット https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/kantoku/dl/040324-6a.pdf

つまり、1年の中で業務時間の付け替えをすることで、1日8時間以上の従来の勤務規定以上の時間就労する日を作り出すことが可能になるということである。

これに関して、斉藤氏らは変形時間労働制によって、見かけ上の残業時間が減少してその実態が隠されること、部活動の顧問の職務命令化、会議の後倒しなどの悪影響が出ることを懸念している。

つまり、長期休暇中の就業時間を他の期間に付け替えることによって、合計の就業時間は変化していないにも関わらず残業時間が減少したように見せかけることが可能なことや、部活動の時間が勤務時間内に収まるように業務時間を設定することで部活動顧問を職務時間中の業務として命じることが可能になること、定時が延長されることによって会議の時間が後倒しになりその後その他の業務に当たることで退勤時間が更に遅くなることなどを懸念している。

 

ここで、先程も少し述べたが、ここから公立学校における教員の勤務体系についての議論を深めるために、私立学校や国立大学付属学校における変形時間労働制、および大学教員の裁量労働制について紹介しようと思う。

 

学校における変形時間労働制の導入

今回の給特法は公立学校に適用されるものである。

しかし、私立や国立大学付属の学校においては、既に変形時間労働制を導入している学校も存在しており、その先行事例について議論することは変形時間労働制の是非を議論する上で必要であろう。

変形時間労働制の学校現場への導入について、包括的に調査を行った資料を私は見つけることができなかったので、個別のケースを元に例を挙げようと思う。

※妹尾:インタビュアー、A先生:国立大学付属学校勤務の教員

妹尾:

1年単位の変形労働時間制が導入されて、夏休み中などの休暇のまとめ取りはできるようになったのでしょうか。

A先生:

毎年8月のこの期間は休みをとってください、と指示されます。これは4月などに通常の7時間45分勤務よりも長く働いた分の振り替えのようなものです。しかし、そのぶん、有休(年次有給休暇)は余ってきます。有休は冬休みと春休みに取得が奨励されていますが、その時期も仕事は多くありますから、多くの日を休めるわけではないです。

妹尾:

年間どのくらい有休、余らせていますか。そもそも、そういう意識も遠のくほど、取っていない感じですか。

A先生:

わたしも周りの先生も、年10日も取れていないんじゃないですかね。

妹尾:

確認ですが、実習や研究会などで、残業しているぶんは、勤務時間把握もされていませんし、実質的にサービス残業扱いですから、変形労働時間制の適用によって、休暇がそのぶん増えているといったことはないですよね。

A先生:

休暇が増えるなんて、ありませんね。8月の休暇のまとめ取りは、基本的には、正規職員であれば同じ日数です。この人は残業が多いから、もっと多くの日数を休めるなんてことはありません。

妹尾昌俊 給特法廃止、変形時間労働制の先行事例、国立大・付属学校で、働き方改革は進んでいるのか? https://news.yahoo.co.jp/byline/senoomasatoshi/20190925-00144004/

記事の全文を引用したいくらいなのだが、それは差し控える。強い関心のある方はリンクから記事にアクセスして欲しい。

もちろんこれはあくまで一つの事例に過ぎないが、これを踏まえながら後の議論を展開していこうと思う。

 

余談ではあるが、学校における変形時間労働制の情報の収集についてだが、非常に難航を極めた。

総合学術電子ジャーナルサイト「J-STAGE」において”変形時間労働制”や”変形時間労働”で検索を行ったが、ヒットした論文は0であった。

また、文部科学省の詳細な調査資料等を本記事の執筆過程において見つけることが出来なかった。

これらのことから、公立学校における変形時間労働制の導入にあたって、先行事例の検証が不十分である可能性をここで指摘しておく。

 

大学教員の裁量労働制

大学教員は、裁量労働制(正確には専門業務型裁量労働制)が適用される場合が多い。裁量労働制とは、以下のような制度である。

業務の性質上、業務遂行の手段や方法、時間配分等を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある業務として厚生労働省令及び厚生労働大臣告示によって定められた業務の中から、対象となる業務を労使で定め、労働者を実際にその業務に就かせた場合、労使であらかじめ定めた時間働いたものとみなす制度です。

厚生労働省 裁量労働制の概要 専門業務型裁量労働制 https://www.mhlw.go.jp/general/seido/roudou/senmon/index.html

つまり、実際にどの程度働いているかに関わらず、所定の時間勤務に当たっているとみなすということである。

これは研究業務に多くの時間を費やす大学教員にとって、厳格な労働時間の管理がそぐわず、かえって自由な研究活動を阻害してしまうことに起因する。

この制度の問題点は、この制度においても残業代が支給されない(そもそも残業という概念が存在しない)というところにある。厳格な労働時間の管理を行わないことを前提とした制度であり、それゆえに残業時間を定義することが困難なのだ。

(大学生時に実際に、大学教員の方々が夜遅くまで勤務している姿を見てきた方も少なくないのではないだろうか。)

 

変形時間労働制の是非-そもそも変形時間労働制による解決は本質的か?-

このように、変形時間労働制と裁量労働制の例についてそれぞれ見てきた。

公立の学校にどのような勤務体系・給与体系を適用すべきかを議論しようと思が、労働時間の管理を行わない点や残業時間という考え方がない点から、少なくとも裁量労働制は考えるべきではないだろう。

では、変形時間労働制はどうか。変形時間労働制を導入するかどうかという点についても、慎重な議論にならざるを得ない

変形時間労働制は長期休暇の勤務時間を他の勤務時に付け替えることを前提としている。しかしながら、学校の業務の見直しや削減についても議論の途上であると言えよう。そもそも、この問題を議論するために必須である、勤務時間の管理についても覚束ない状況である。

教員の働き方改革は、膨張している学校の業務を見直すことが本質であると私は考える。であるならば、今現在存在している業務に対応するために変形時間労働制を導入することは、本質的でないと考える。

先程まで議論してきたように、学校の業務の膨張に対する解決策は、業務の削減や効率化・外注化である。それにより、現在過剰である教員の業務や勤務時間を減らすことを目指している。

にも関わらず、変形時間労働制によって勤務時間の付け替えを行おうとすることは、この本質的な問題から議論の矛先を逸らしていることであると考える。

 

また、コロナ禍で非常時の状況とはいえ、先ほど示した今回のイベントの参加者アンケートでは給特法改正で示されている月45時間の残業時間を超過している様子が見て取れる。この状態で変形時間労働制へと議論を進めることは本質的でないと言わざるを得ない。

とはいえ、変形時間労働制のメリットとして提示されていることが全くの嘘であるとも思えないし、可能性を否定することはできない。長期休暇をまとめて取ることを実現できれば恩恵を被る教員もいるだろう。あるいは、月の中で勤務時間をやりくりすることで生活との両立をよりやりやすくすることができるかもしれない。これらは一定の基盤があれば、実現する可能性はあるのだろう。しかしながら、現状においてはその基盤が崩壊しており、まずはそこを見直すべきなのではないだろうか

まずは、人員の増加や業務の削減・外注化・効率化によって業務を見直すことで学校教育の基盤を再構築し、その先に教員がより豊かになるための手段として変形時間労働制を議論すべきではないだろうかと私は考える。

 

教員のメンタルケアの重要性

ここまでは、教員を取り巻く制度や環境が、現実の教育現場と乖離している様について議論を進めてきた。

ここから議論の流れを少し変え、教員の健康面についての議論を進めようと思う。

 

教員の過労死・健康被害

教員の過労死は度々問題になってきた。

先程までで見てきたように、教員の業務は膨張しており、教員にかかる負担は給特法が制定された50年ほど前とは比べものにならなくなっている。

イベント中で神奈川過労死等を考える家族の会の工藤氏も述べていたが、ここでも、本格的な議論の前に過労死等の定義について確認をしておきたい。

過労死等の定義

  • 業務における過重な負荷による脳血管疾患・心臓疾患を原因とする死亡
  • 業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡
  • 死亡には至らないが、これらの脳血管疾患・心臓疾患、精神障害

厚生労働省 過労死等防止対策 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000053725.html

このように、業務における過大な身体的・精神的負荷が原因となって起こる死亡や健康障害のことが過労死等と定義されている。

次に、先生の過労死に関わる状況について、見ていこうと思う。以下に提示する2つの図表を見ていただきたい。

 

図 教職員の過労死の状況

平成29年度地方公務員の過労死等に関わる労働・社会分野に関する調査研究(概要)https://www.soumu.go.jp/main_content/000577018.pdf

表 教員の精神疾患による休職者数の推移

引用:平成29年度公立学校教職員の人事行政状況調査結果(概要)https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2018/12/25/1411823_01.pdf

このように、精神疾患による休職者数はここ10年ほどは5000人前後で推移していることが分かる。

また、過労死等に認定された教員は51人であったが、イベント中に工藤氏は実態はもっと多数の過労死等の教員が存在していることを指摘していた。

 

このように現状の休職者や過労死等の実態を見てきたが、教員の業務膨張の流れと関連させて議論をするならば、それらの推移をより広いスパンで見てみることが不可欠である。

給特法が制定された1970年代からの推移を表したものは私は見つけることが出来なかったのだが、以下に1990年代からの精神疾患者数の推移のグラフを示す。

 

表 教員の休職者数の推移

引用:全日本教職員組合 教職員の長時間過密労働の抜本的な解決を求める全教の提言201711月 http://www.zenkyo.biz/pdf/171122teigen.pdf

このグラフを見ると、2008年頃以降からの教員の休職者の変化に大きな変化は見られないが、それ以前については、年々教員の休職者数が増加していたことが見て取れる。

教員の業務の膨張の様子を定量的に評価できない以上、この推移と直接因果関係を結びつけることはできないが、無関係ということもできない推移である。

このように、教員の業務の膨張は、教員を過労に追い込んできたことが推察される。

 

教員の過労と変形時間労働制

変形時間労働制の導入の理由として、夏休み中の休みのまとめどりを可能にすることが挙げられている。

確かに夏休みをまとまって取ることができれば、それが教員の健康面を維持することにつながるという考えも理解できる。

しかしながら、その分の勤務時間は他の時期に付け替えることが想定されており、その分の時期の負担が依然教員にのしかかることを忘れてはならない。

このことに関して、工藤氏はイベント中に、過労死の発生が新学期の時期に多いことと照らして、変形時間労働制への不安を述べている。

つまり、変形時間労働制では、夏休みや冬休み、春休みなどの長期休暇に休暇を取ることが前提とされている。しかし、1学期の転任後の環境や長時間労働が、教員の過労死等の原因となっていることから、変形時間労働制によって1学期の勤務を見かけの上で勤務時間内に収めたとしても、長時間労働という根本的な課題の解決には至っていないということである。

また、教員の長時間労働について、嶋﨑氏は以下のように指摘している。

  • 教員の命と健康の問題
  • 意欲ある教員が離職⇒さらに長時間労働(悪循環)

*「非正規教員」の犠牲で維持

  • 教育の質低下を招く

イベント中スライド 52:47~55:15 https://www.youtube.com/watch?v=lOSMOyoe0K0&feature=youtu.be

教員の働き方改革において、このような変形時間労働制が長時間労働による過労を生み出し、それによって更なる悪循環が起こりうることは、先ほど述べたその本来の意図とは相反する。

しかしながら、このような事態が起こりうるという可能性や疑念は払拭することができていないのが現状である。

実際に、先に紹介した既に変形時間労働制を導入した事例を見ても、変形時間労働制の導入によって教員の負担が軽減されている様子を伺うことはできない。

この変形時間労働制による教員の過労については、既に変形時間労働制を導入している大学付属学校や私立学校において調査を行い、学校の特性の違いや勤務日時の差などに留意したうえで分析するしたうえでしっかりと議論していくことが望ましいのではないのかと私は考える。

 

追加の論点-コロナ禍の中の学校と社会-

ここまで、イベント内で提示された論点を軸に議論を進めてきた。

ここからは、子どもの教育と教員の働き方改革について更に議論を深めるために、参考程度に私からもいくつか論点を提示し、それらについて議論していければと思う。

追加で提示する論点は以下の2点である。

  • 子どもを取り巻く社会インフラと学校
  • 社会と学校の関係の在り方

子どもを取り巻く社会インフラと学校

インフラとはインフラストラクチャーの略であり、必要不可欠な社会基盤の事を指す。

そのような中で、学校は子どもにとって必要不可欠な社会基盤としての、社会インフラとしての役割を果たす。

 

今回のコロナ禍の中で、子どもたちは学校という場から切り離された。

学校再開後、子どもたちの声として上がったのは、同級生に会える喜びや、学校で学ぶことができる喜びであった。

つまり、学校は同世代の仲間と接することのできる場としての役割を持っており、その場は子どもたちにとって必要不可欠なものになっていると言えるであろう。また、同時に、学習の場や相談の場としても機能していると言える。

(もちろん、学校教育以外を選択する自由が存在しているという意味で、学校が全ての子どもにとって必要不可欠であると断じることはできない。また、子どもが相談する場は学校以外にも存在する。それらを考慮してなお、多くの子どもにとって学校が必要不可欠であることは間違いないだろう。)

 

また、今回のコロナ禍において、親から見た学校の社会インフラ性も浮き彫りになった。

具体的には、学校の“託児所”的な役割である。

つまり、学校に子どもが居ない時間が、人によっては仕事の時間であったり、趣味の時間であったりと、何かしら育児から解放されていた時間であった、ということである。

コロナ禍において育児と仕事の両立の困難さや、常時子どもの面倒を見ることのストレスの声が挙がってきたことからも、このことが伺えるであろう。

 

この学校のインフラ的役割を全て教員が担う必要があるかは、これまで積み重ねてきた働き方改革の議論からも懐疑的になるべきであろう。しかしながら、このような学校のインフラ的役割はコロナ禍で浮き彫りになった1つの学校の特徴ではないかと考えられる。

 

社会と学校の関係の在り方

日本の学校は、地域社会との関係性が重視される傾向がある。

実際、教育以外の面においても、学校が社会の中で果たす役割は大きい。

地域交流の場、災害時の避難所、選挙時の投票所など、学校は子どもの教育以外においても地域社会の中に根差した存在であるとも言える。

 

しかしながら、今回のコロナ禍において学校が休校となり、同時に地域社会のコミュニティの場としての学校も失われた

直接的な接触を防ぐために社会全体としてコミュニティの場がオンラインに移行していることは紛れもない事実であり、物理的な場としてのコミュニティが機能していないのが現状である。

そのような中で、文部科学省も何とか地域社会と協同することによって、地域による学びの保障を推奨しようとしているが、実際にはオンラインでの活動の推奨に留まっているhttps://www.mext.go.jp/content/20200519-mxt_kouhou01-000004520_2.pdf

 

しかしながら、地域社会との連携は従来地域住民との物理的接触を考慮して考えられており、またその状況における学びに価値を置いてきた側面も存在する。

だがコロナ禍の状況において、この想定のまま事態を進めていくことは困難である。

社会と学校の関係性については未だ見通しが立っていないだろうし、議論の優先順位としては低いかもしれない。しかし、コロナ禍における地域コミュニティと学校の関係の再構築は避けられない事態であるかもしれない。

 

このように私からは、上記の2点を新たな論点として提示させていただいた。

しかしながら、これらの業務を教員が担うべきであると主張したい訳ではない。むしろ、教員ではなく、事務職員などを増員してあたるべき業務も少なくないであろう。

それでもこの2点を論点として提示したのは、学校の働き方改革に当たって業務の割り振りを見直す際に、教科教育や生徒指導以外の面においても学校の社会的役割を維持することのできる体制の構築を望んでのものである。

読者の方々にはこれらの論点を起点に、学校が担う役割ではあるが教員が担うものでない部分についても考えを深めていただき、よりよい学校の形に向けた議論への一助としていただければ幸いである。

 

最後に-全ての人にとって豊かな学校のために-

ここまで、教員の働き方改革について、いくつかの論点から議論を進めさせていただいた。

私が望むのは、生徒や教員、地域の方など、学校に関わる全ての人にとって、学校が過剰な負担とならず、豊かさを享受することができるような社会を実現することである。その想いから、今回このような記事を執筆させていただいた。

 

イベント中でもおっしゃっていたが、学校の働き方改革の最前線にいらっしゃる内田氏や斉藤氏らが、世論として学校の働き方を問い直そうという動きを肌で感じているということは大変喜ばしいことであると私は思い、またそれを盛り上げていくべきなのであろう。

 

教員の働き方の議論が活性化し、全ての人にとってより良い方向へと変化していくことを希う。

 

あとがき

最後に、イベントに登壇された内田良氏、斉藤ひでみ氏、工藤祥子氏、嶋﨑量氏(順不同)に、改めて深い敬意を表します。

また、ここまで読んでいただいた読者の方々にも感謝と敬意を表します。この記事から更に議論が進展し、教員の働き方改革が良い方向に進むことがあれば、私としても幸いです。

 

参考文献

以下に本記事の執筆にあたっての参考文献を示す。なお、記事中で複数回同一資料からの引用を行っている箇所があるが、ここでの参考文献の提示においては重複を避けるため、同一資料については一度のみ記載していることをご了承いただきたい。

冒頭

『コロナ禍の子どもの教育と教員の働き方改革を問う』YouTube  https://www.youtube.com/watch?v=lOSMOyoe0K0&feature=youtu.be

 

2.教員の業務過多な現状と見直しの動き

竹内健太、「学校・教員に期待される役割像」をめぐって-役割像のスリム化は実現可能か?-、立法と調査、2020年4月、https://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/chousa/rippou_chousa/backnumber/2020pdf/20200414038.pdf

中央教育審議会(第121回総会、2020年1月25日開催)「新しい時代の教育に向けた持続可能な学校尾指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革に関する総合的な方策について」(以下、中教審第121回総会)答申本文、第4章、https://www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/toushin/__icsFiles/afieldfile/2019/03/08/1412993_1_1.pdf

中教審第121回総会参考資料、https://www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/toushin/__icsFiles/afieldfile/2019/03/08/1412993_24_1.pdf

文部科学省,学習指導要領とは何か?、https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/idea/1304372.htm

内閣府経済財政諮問会議 経済・財政一体改革推進委員会 非社会保障ワーキンググループ 第3回会議資料(2015年10月2日)、https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/reform/wg2/271002/shiryou1-3.pdf

残業代ゼロ 教員の長時間労働を生む法制度2017年12月11日 内田良https://news.yahoo.co.jp/byline/ryouchida/20171211-00079169/

引用:ベネッセ教育総合研究所 第6回学習指導基本調査 DATA BOOKU(小学校・中学校版)第5章2016、https://berd.benesse.jp/up_images/research/Sido_SYOTYU_05.pdf

中央労働災害防止協会 安全衛生情報センター 過労死等防止対策推進法 第一章総則 第二条https://www.jaish.gr.jp/anzen/hor/hombun/hor1-3/hor1-3-176-1-0.htm#:~:text=(%E5%AE%9A%E7%BE%A9)%20%E7%AC%AC%E4%BA%8C%E6%9D%A1%20%E3%81%93%E3%81%AE,%E8%8B%A5%E3%81%97%E3%81%8F%E3%81%AF%E7%B2%BE%E7%A5%9E%E9%9A%9C%E5%AE%B3%E3%82%92%E3%81%84%E3%81%86%E3%80%82

厚生労働省 過労死等防止対策https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000053725.html

平成29年度地方公務員の過労死等に関わる労働・社会分野に関する調査研究事業https://www.soumu.go.jp/main_content/000577019.pdf

文部科学省 学校における働き方改革に関する取り組みの徹底について(通知) https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/hatarakikata/__icsFiles/afieldfile/2019/03/18/1414498_1_1.pdf

中央教育審議会(第124回、2020年1月24日開催) 資料1-1 公立の義務教育諸学校等の教職員の給与等に関わる特別措置法の一部を改正する法律について、https://www.mext.go.jp/kaigisiryo/content/000029822.pdf

 

3.教員を取り巻く制度と現状の乖離

公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法(昭和四十六年法律第七十七号)、https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=346AC0000000077

文部科学省 教職調整額の経緯等についてhttps://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/031/siryo/07012219/007.htm#a01

中央教育審議会 初等中等教育分科会 教員給与の在り方に関するワークンググループ 教員の職務についてhttps://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/031/siryo/06111414/003.htm

厚生労働省 労働基準行政関係リーフレット https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/kantoku/dl/040324-6a.pdf

文部科学省 学校における働き方改革特別部会資料7(平成30年10月15日) 一年単位の変形時間労働制について(労働基準法第32条の4)、https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/079/siryo/__icsFiles/afieldfile/2018/10/16/1410185_7.pdf

妹尾昌俊 給特法廃止、変形時間労働制の先行事例、国立大・付属学校で、働き方改革は進んでいるのか? https://news.yahoo.co.jp/byline/senoomasatoshi/20190925-00144004/

厚生労働省 裁量労働制の概要 専門業務型裁量労働制 https://www.mhlw.go.jp/general/seido/roudou/senmon/index.html

 

4.教員のメンタルケアの重要性

厚生労働省 過労死等防止対策https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000053725.html

平成29年度地方公務員の過労死等に関わる労働・社会分野に関する調査研究(概要)https://www.soumu.go.jp/main_content/000577018.pdf

平成29年度公立学校教職員の人事行政状況調査結果(概要)https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2018/12/25/1411823_01.pdf

全日本教職員組合 教職員の長時間過密労働の抜本的な解決を求める全教の提言2017年11月 http://www.zenkyo.biz/pdf/171122teigen.pdf

 

5.追加の論点

NPO放課後アフタースクール 【緊急アンケート結果公開】休校中の子どもたちが最も求めていること(2020年5月11日)、https://npoafterschool.org/archives/blog/2020/05/28475/

市民タイムスWEB 小中学校再会に喜びと不安 新型コロナ対策万全に(2020年4月7日)、https://www.shimintimes.co.jp/news/2020/04/post-9187.php

文部科学省総合教育政策局 地域学習推進課地域学校協働活動推進室「緊急事態措置を実施すべき区域の指定解除に伴う地域学校協働活動の取扱及び地域学校協働活動の取組の工夫に関する考え方について(令和2年5月18日)、https://www.mext.go.jp/content/20200519-mxt_kouhou01-000004520_2.pdf

 

なお、私のこの記事は登壇者の方々とは何の関係もなく、あくまでイベントを視聴した、大学院生一個人の感想と考えです。当記事に対する問い合わせはこのブログのフォーム、もしくはSNSのDMを通してお願いいたします。

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